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	<title>小話を、ひとつ。</title>
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		<title>１</title>

		<description>２５歳の千春は仕事と趣味に生き甲斐を感…</description>
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			<![CDATA[ ２５歳の千春は仕事と趣味に生き甲斐を感じているごく普通の一般会社員だ。一応、彼氏と呼べる存在がいる。
知人の紹介で知り合った彼の隆は年上の人で、千春とちょうど十歳離れている。
地元でも古く名の知れた某金属工場で働いている隆は、千春に言わせれば高給取りの部類に入る。
しかし付き合い始めて間もなく知ったことだが、隆には百万の貯金も無かった。
その話を聞いたとき千春は隆と付き合っていく自信を失いかけた。貯金が無いことを嫌ったのではない。
高卒で入社しているのだから勤続年数は長いはずである。月々の高給と年二回の恐らく高額であろうボーナスを得ているにも関わらず、なぜ貯金が無いのか、それが気になったのだ。
千春は隆に貯金が無い理由と、金銭の使い道を尋ねた。彼が言うには具体的に何に使っているわけではないが何となく持っているだけ使い果たしてしまう、ということだった。
呆れて言葉も出ない。とても三十代も半ばに差し掛かった男の言葉とは思えなかったのだ。
「でもこれからは貯金をしていけるように頑張るつもりだよ、車のローンも来年には終わるしね」
隆はそう言って笑ったが千春は冷めていた。むしろ「お前の給料ならあっという間に多額も貯まるだろう」、そんな嫉妬も入り混じった皮肉さえ考えたほどだ。

幼い頃に両親が離婚して以来、千春は母子家庭で育った。養育費もろくに渡さない父親に激怒した母親は、千春が小学６年生の頃に家庭裁判所に出向き養育費の請求を図って父親を訴えた。
それに逆上した父親は後日、世間も眠る真夜中に酒の力を借りて家に遅いかかってきた。何度もインターホンを鳴らし乱暴にドアを蹴る。まるで借金の取立てにでも来た暴力団さながらだった。
その日以来、千春はインターホンの音が苦手になった。
母子家庭の暮らしというものは当然ながら楽なものではない。母親は長年、借金のカード地獄に陥り苦しむことになった。
時には自殺を思い、夜な夜な布団の中で泣いている母親の姿というものは、当時は千春でさえ気づかなかったのだ。
経験から母親は男は金を持っていて、尚且つ暴力を振るわない穏やかな人がいいと口癖のように千春に言って聞かせていた。母親の苦労を見てきた千春も、それを望んだ。
そして出会った隆は言葉のとおり金銭に不自由が無い優しくて穏やかな人。
ところがなぜか千春は彼との出会いを素直に喜べない。彼に対しては恋愛感情も、ときめきも無いのである。あるのは「金に不自由しない男」に対しての嫉妬だけだった。
お金を持っていて尚且つ優しくて穏やかなのは、金銭に不自由していないからだ。ここで無一文になったとき、きっと彼も金銭の有難さを思い知らされ、貯金をしていなかった自分を悔やんで責めるはずである。
金を失って一度どん底を見てみればいい、これが千春の隆に対する隠れた本心だった。


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		<dc:date>2012-07-29T22:22:41+09:00</dc:date>
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		<title>エピローグ</title>

		<description>結局のところ、私は何に恋をしているのか…</description>
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			<![CDATA[ 結局のところ、私は何に恋をしているのかが分からない。考えてみれば恐らくは二つの答えが思い当たる。恋人か、恋人が持っているお金かだ。
愛だけでは生きていけないと世間は言うが、それは拒めない。貧しい生活は正直ごめんだ。
だけどあの時の、あの選択が果たして正しかったのかどうか、それもまた永久に分かることは無いのである。
たまに無性に欲しくなるものがある。選ばなかった道の先に待っていた答えを知り得る能力だ。こんな優れた能力さえ持っていれば、万人は人生を間違えることは無いはずだ。
あの時もし違う道を選んでいたなら、私は同じこの時間をどう生きていたのだろうか。知りたくて仕方がないのである。







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		<dc:date>2012-07-29T21:11:57+09:00</dc:date>
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